みっつのうそ ――きんだいでんせつ――
三つの嘘 ――近代伝説――

冒頭文

或るところに、元という長者がありました。賤しい生れでしたが、一代に長者となったのであります。若い頃、沿海航路の小さな貨物船の水夫をしていて、ひそかに、いかがわしい商売をして、相当の資産を得た、という噂がありますが、それも確かなことは分りません、とにかく、何かで或る程度の金を儲けて、それから、相場をしたり、金貸をしたりして、それがみな運よくゆき、ひとかどの長者となりました。ただ茲に注意すべきことには

文字遣い

新字新仮名

初出

「知性」1940(昭和15)年10月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説4)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日