とびとかきととり
鳶と柿と鶏

冒頭文

一 丘の上の小径から、だらだら上りの野原をへだてて、急な崖になり、灌木や小笹が茂っている。その崖の藪に、熊か猪かと思われるようなざわめきが起り、同時にわっと喚声があがって、一人の青年が飛び出して来、次で子供が三人飛び出して来た。 吉村はびっくりして、小径につっ立っていた。 見ると、青年はたしかに李永泰である。無帽で、運動シャツ、学校の教練ズボンのお古らしいのをつけている。

文字遣い

新字新仮名

初出

「知性」1939(昭和14)年11月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説4)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日