げんごとどうぐ
言語と道具

冒頭文

人間というものが始めてこの世界に現出したのはいつ頃であったか分らないが、進化論に従えば、ともかくも猿のような動物からだんだんに変化して来たものであるらしい。しかしその進化の如何なる段階以後を人間と名づけてよいか、これも六(むつ)かしい問題であろう。ある人は言語の有無をもって人間と動物との区別の標識としたら宜(よ)いだろうと云い、またある人は道具あるいは器具の使用の有無を準拠とするのが適当だろうとい

文字遣い

新字新仮名

初出

「理学界」1923(大正12)年5月

底本

  • 寺田寅彦全集 第五巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年4月4日