じろうものがたり 01 だいいちぶ |
次郎物語 01 第一部 |
冒頭文
一 お猿さん 「癪(しゃく)にさわるったら、ありゃしない。」と、乳母のお浜が、台所の上り框(がまち)に腰をかけながら言う。 「全くさ。いくら気がきついたって、奥さんもあんまりだよ。まるで人情というものをふみつけにしているんだもの。」と、竈(かまど)の前で、あばた面をほてらしながら、お糸婆さんが、能弁にあいづちをうつ。 「お前たち、何を言っているんだよ。」と、その時、台所と茶の間を仕切る障
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 下村湖人全集 第一巻
- 池田書店
- 1965(昭和40)年7月10日