ほたる

冒頭文

登勢(とせ)は一人娘である。弟や妹のないのが寂(さび)しく、生んでくださいとせがんでも、そのたび母の耳を赧(あか)くさせながら、何年かたち十四歳に母は五十一で思いがけず姙(みごも)った。母はまた赧くなり、そして女の子を生んだがその代り母はとられた。すぐ乳母(うば)を雇い入れたところ、おりから乳母はかぜけがあり、それがうつったのか赤児は生れて十日目に死んだ。父親は傷心のあまりそれから半年たたぬうちに

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1944(昭和19)年9月

底本

  • 日本文学全集72 織田作之助 井上友一郎集
  • 集英社
  • 1975(昭和50)年3月8日