ろうふうふ
老夫婦

冒頭文

一 為吉とおしかとが待ちに待っていた四カ年がたった。それで、一人息子の清三は高等商業を卒業する筈だった。両人(ふたり)は息子の学資に、僅かばかりの財産をいれあげ、苦労のあるだけを尽していた。ところが、卒業まぎわになって、清三は高商が大学に昇格したのでもう一年在学して学士になりたいと手紙で云ってきた。またしても、おしかの愚痴が繰り返された。 「うらア始めから、尋常を上ったら、もうそれより

文字遣い

新字新仮名

初出

1925(大正14)年9月

底本

  • 黒島傳治全集 第一巻
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年4月30日