やまぶきのはな |
山吹の花 |
冒頭文
湖心に眼があった。青空を映し、空に流るる白雲を映して、悠久に澄みきり、他意なかったが、それがともすると、田宮の眼と一つになった。田宮の眼が湖心の眼の方へ合体してゆくのか、湖心の眼が田宮の眼の方へ合体してくるのか、いずれとも分らなかったが、そうなると、眼の中がさらさらと揺いで、いろいろな人事物象が蘇って見えた。 それらの人事物象から、田宮は遁れるつもりだった。意識的に遁れるつもりだった。そ
文字遣い
新字新仮名
初出
「群像」1953(昭和28)年2月
底本
- 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
- 未来社
- 1966(昭和41)年11月15日