とらわれびと
囚われ人

冒頭文

或るコンクリー建築の四階の室。室内装飾は何もないが、ただ、大きな電灯の円笠が天井からぶらさがっていて、室中に明るみを湛えている。片側だけ窓で、窓の外は闇夜。全体が箱の中のような感じ。室の一方に、巨大な円卓があって、その端寄りに数人の男女が集まっている。彼等と向い合って、室の他方に、四角な小卓があり、正夫が坐っている。正夫はたいてい卓上に顔を伏せていて、ごく稀にしか顔を挙げない。——この一篇、単に寓

文字遣い

新字新仮名

初出

「群像」1952(昭和27)年7月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第五巻(小説5・戯曲)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年11月15日