しゅんもう
春盲

冒頭文

終戦後、東京都内にも小鳥がたいへん多くなった。殊に山の手の住宅街にそうである。空襲による焼野原が至るところに拡がっていて、人家はまだ点在的にしか建っておらず、植えられた樹木も灌木の如く小さい。随って、焼け残りの街衢は、荒野の中に小さな聚落をなし、こんもりとした樹木の茂みに包まれて、町ではなく村である。そういう部落の木立をしたって、小鳥たちが集まっているのであろうか。 以前には見られなかっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「人間」1951(昭和26)年4月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年11月15日