おんなごころのつよければ
女心の強ければ

冒頭文

一 松月別館での第一日は、あらゆる点で静かだった。二日目も静かだったが、夕刻、激しい雷雨雷鳴が襲ってきた。 天候の異変は、却って人の心を鎮める。 いいなあ、と長谷川梧郎は思った。 本館では、客がたて込んでいて、騒々しく、仕事など出来そうになかった。もっとも、或る文化団体の嘱託事務のかたわら、際物の翻訳などをやっている、その翻訳の仕事だから、大したものではなく、懶

文字遣い

新字新仮名

初出

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年11月15日