こうじんぶつ |
好人物 |
冒頭文
一、高木恒夫の告白 人生には、おかしなことがあるものだ。三千子は僕に対して、腹を立ててるようだが、それもおかしい。僕は彼女の意に逆らったことは一度もなく、すべて彼女の言いなり次第になっているのに、彼女一人でなにか苛ら立って、僕を怒らせようと仕向け、それでも僕が一向に怒らないものだから、ますます焦れてくるといった風である。見ていると、滑稽で気の毒にもなるが、たかが女のことだ、放っておくに限る。
文字遣い
新字新仮名
初出
「読売評論」1950(昭和25)年3月
底本
- 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
- 未来社
- 1966(昭和41)年11月15日