ぎゅうにゅうとうま
牛乳と馬

冒頭文

橋のところで、わたしは休んだ。疲れたわけではないが、牛乳の一升瓶をぶらさげてる、その瓶容れの藁編みの紐が、掌にくい入って痛かった。どうせ急ぐこともない。牧場の前の茶店まで、家から一キロ半ほどの道を、散歩のつもりで往復するのである。九月にはいると、この高原はもうすっかり秋の気分。咲き乱れた女郎花にまじって、色とりどりの秋草が花を開きかけている。避暑客も少くなり、道行く人もあまりない。あたりの空気がす

文字遣い

新字新仮名

初出

「思索」1949(昭和24)年11月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年11月15日