あるさっかのやくび |
或る作家の厄日 |
冒頭文
準備は出来た。彼女が来るのを待つばかりだ。御馳走が少し足りないようだが、この場合、いろんな物をごてごて並べ立てるのも、却ってさもしい。万事すっきりと、趣味を守ることだ。腹にたまるようなものは避けたがよい。肉類はだいたい下品だ。もし腹がへったら、白いパンにキャビア……パンは白いにきまってる筈だが、その白いパンがなかなか手にはいらない悲しい時代だ。其他、おれはずいぶん配慮した。第一、女中やさよ子の手を
文字遣い
新字新仮名
初出
「群像」1949(昭和24)年10月
底本
- 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
- 未来社
- 1966(昭和41)年11月15日