うしなわれたはんしん
失われた半身

冒頭文

独りでコーヒーをすすっていると、戸川がはいって来て、ちょっと照れたような笑顔をし、おれと向き合って席についた。 「やはり……いつもの通りだね。」 「うむ、習慣みたいなものさ。」 「習慣……、」戸川はなにか途惑ったようで、「然し、一週に一回の習慣というのが、あるかなあ。」 「年に一回のだって、あるからね。正月だとか、盂蘭盆だとか……。」 「そりゃあ、初めから年一回ときまってるんだが、君

文字遣い

新字新仮名

初出

「ユニヴァーシティー No. 2」1949(昭和24)年10月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年11月15日