ほどよいひと
程よい人

冒頭文

「あなたは仮面をかぶっていらした。その仮面を脱いで下さい。」 泣きながら、京子は言うけれど、私としては、別に仮面をかぶっていたわけではない。ただ、最も穏当な方便を講じ、謂わば中道を歩いたに過ぎない。中道を歩く者に、どうして罪など犯せるものか。人々から非難される理由を、私は自分に発見出来ないのだ。 或は、私は余りに謙虚な態度を装ったかも知れない。然し謙虚な態度というものは、如何なる場

文字遣い

新字新仮名

初出

「女性線」1949(昭和24)年5月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年11月15日