つきもの |
憑きもの |
冒頭文
山の湯に来て、見当が狂った。どこかに違算があったのだ。 僅か二三泊の旅の小物類にしては、少し大きすぎる鞄を、秋子はさげて来たが、その中に、和服の袷や長襦袢がはいっていた。だが帯はない。湯からあがってくると、浴衣と丹前をぬぎすて、臙脂と青とのはでな縞お召の着物に、博多織の赤い伊達巻をきゅっと巻き緊めた姿で食卓について、真正面から私の顔にじっと眼を据えた。黒目が上ずって瞳孔が拡大してるような
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造文芸」1949(昭和24)年5月
底本
- 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
- 未来社
- 1966(昭和41)年11月15日