ペキン・チンタオ・そんらく
北京・青島・村落

冒頭文

大平野の中で、吾々は或る錯覚を持つことが多い。丘陵とか、森とか、工場の煤煙とかが、視線を遮ることなく、遙かに地平線まで見渡せる場合、つまり、視線に対する抵抗物が平野の上に何もない場合には、その地平線の彼方に海があるような錯覚を起すのである。これは、四方海にかこまれた陸地に、そして常に視線に対する抵抗物の多い陸地に住む者の、常態であろう。 河北大平野には、処々に村落があり、木立がある。然し

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)
  • 未来社
  • 1967(昭和42)年11月10日