月清らかな初夏の夜、私はA老人と連れだって、弥生町の方から帝大の裏門をはいり、右へ折れて、正門の方へぬけようとした。二人とも可成り酔っていた。不忍池の蓮の花に、月の光が煙っているのを眺めながら、一杯傾けての帰りなのである。 八角講堂の裏の、薄暗いだらだら坂を上りきって、ぱっと蒼白い月光の中に出た時、A老人は突然立止って、私の肩を叩いた。 「どうだい、こうして眺めると、大学というもの