あきのまぼろし
秋の幻

冒頭文

或る田舎に母と子とが住んでいた。そして或る年の秋、次のようなことがあった。—— 「もう本当に天気がよくなったのでしょう。」 「そうね。」 母と子とは、或る朝そんな会話をした。そして二人共晴々した顔を挙げて、青く澄んだ大空を見上げた。大空を見上げる前彼等の視線は、広い野の上を掠め、野の向うに聳立っている山の頂を掠めた。そして今、視線が更にその上の青い大空のうちに吸い込まれると、彼等は何

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)
  • 未来社
  • 1967(昭和42)年11月10日