がま
蝦蟇

冒頭文

五月頃から私の家の縁先に、大きい一匹の蝦蟇が出た。いつも夕方であった。風雨の日や、妙に仄白く暮れ悩んだ日や、月のある夕方などには、出なかった。夕闇が濃く澱んでいる時や、細かい雨がしとしと降る時などに、出た。垣根に沿ってのそりのそりと匐っていった。それが如何にも悠然としていた。静かであった。そして大きい力に満ちていた。 夕食が少し後れたような時、散歩にも出たくないような時、私は紙巻煙草を口

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)
  • 未来社
  • 1967(昭和42)年11月10日