にくたい |
肉体 |
冒頭文
「なんだか……憂欝そうですね。」 さりげなく云われたそういう言葉に、私はふっと、白けきった気持になって、酒の酔もさめて、自分の顔付が頭の中に映ってくることがあります……。私が鏡を見るのは、髯をそる時、髪をなでつける時、まあそんなものですが、それよりももっとはっきりした鏡が頭の中にあって、それに自分の顔付が映ってきます。——頬は酒の酔に赤くほてっているのに、額に薄暗い影がかかっていて、眼尻にい
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸」1935(昭和10)年10月
底本
- 豊島与志雄著作集 第三巻(小説Ⅲ)
- 未来社
- 1966(昭和41)年8月10日