しのぜんご |
死の前後 |
冒頭文
その朝、女中はいつもより遅く眼をさまして、本能的に遅いのを知ると、あわててとび起きた。いつもは、側にねているおしげが、眼ざまし時計のように正確に起上って、彼女を呼びさますのだったが、そのおしげの床が空っぽだった。それだけのことに彼女は変に心打たれ、いちどにはっきり眼をさまし、急いで寝間着を着かえ、帯を結びながら台所へやっていった。電気をつけると、そこの……旧式の台所で、板敷のところから一段ひくくな
文字遣い
新字新仮名
初出
「経済往来」1933(昭和8)年11月
底本
- 豊島与志雄著作集 第三巻(小説Ⅲ)
- 未来社
- 1966(昭和41)年8月10日