たちがれ
立枯れ

冒頭文

穏かな低気圧の時、怪しい鋭い見渡しがきいて、遠くのものまで鮮かに近々と見え、もしこれが真空のなかだったら……と、そんなことを思わせるのであるが、そうした低気圧的現象が吾々の精神のなかにも起って、或る瞬間、人事の特殊な面がいやになまなましく見えてくることがある。そういうことが、小泉の診察室の控室で、中江桂一郎に起った。 小泉がキミ子を診察してる間、中江はその控室で、窓外の青葉にぼんやり眼を

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1933(昭和8)年7月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第三巻(小説Ⅲ)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年8月10日