きずあとのはいけい |
傷痕の背景 |
冒頭文
一 比較的大きな顔の輪郭、額のぶあつい肉附、眼瞼の薄いぎょろりとした眼玉、頑丈な鼻、重みのある下唇、そして、いつも櫛のはのよく通った髪、小さな口髭……云わば、剛直といった感じのするその容貌の中で、斜に分けられてる薄い頭髪が微笑み、短く刈りこまれてる口髭が社交的に動くのである。むろん、肩幅が広く、背が高い。前陸軍少佐…………。 陸軍少佐の職を弊履の如く捨てた、彼である。退職将校という
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論」1929(昭和4)年9月
底本
- 豊島与志雄著作集 第三巻(小説Ⅲ)
- 未来社
- 1966(昭和41)年8月10日