そうしゅ
操守

冒頭文

一 吉乃(よしの)は、いつものんきで明るかった。だから或る男たちは、彼女をつまらないと云った。のんきで明るいだけなら、人形と同じだ。人形を相手に遊ぶのは、子供か老人——ロマンチックな初心者か、すれっからしの不能者か……。だが普通の者にとっては、酒の後では、煙草の味が一層うまいように、何かしら、賑かさが、淋しさが、色っぽさが、あくどさが、媚が、邪慳が、或は……兎に角刺戟が、嬉しいものだ。そこを

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1929(昭和4)年12月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第三巻(小説Ⅲ)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年8月10日