ふしょうのあに
不肖の兄

冒頭文

敏子 なぜ泣くんだ。何も泣くことはありゃしない。嬉しいのか、悲しいのか……いや兎に角、こんな時に泣く奴があるものか。 僕も悪かった。がそりゃあ、皆が云う通りの不肖の兄、そういう僕なんだから、おかしな理屈だが、まあ名前に免じて許してくれよ。 僕は知らなかったんだ、お前と浜地との間を……あの翌朝まで。薄々は分ってたようにも後では思えるが、全く、翌朝初めて母から聞いてはっき

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1925(大正14)年12月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日