ふるいど
古井戸

冒頭文

一 初めは相当に拵えられたものらしいが、長く人の手がはいらないで、大小さまざまの植込が生い茂ってる、二十坪ばかりの薄暗い庭だった。その奥の、隣家との境の板塀寄りに、円い自然石が据っていた。 「今時、これほどの庭でもついてる借家はなかなかございませんよ。それですから、家は古くて汚いんですけれど、辛棒して住っておりますの。」 「そうですね。手を入れないで茂るに任してあるところが却って……

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1925(大正14)年10月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日