あし

冒頭文

寝台車に一通り荷物の仕末をして、私は食堂車にはいっていった。暑くてとても眠れそうになかったので、ビールの助けをかりるつもりだった。ビールを飲めば、後で却って暑くなることは分っていたが、どうせ暑いんだから、多少酔った方がごまかしがつく……とそう考えたのだった。 食堂の中はこんではいなかったが、それでも五六人の客が、方々の卓子で、酒を飲んだり料理を食ったりしていた。私は片隅の方に腰かけて、一

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1925(大正14)年9月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日