おかのうえ
丘の上

冒頭文

丘の上には、さびれた小さな石の堂があって、七八本の雑木が立並んでいた。前面はただ平野で、部落も木立も少く、農夫の姿も見えない、妙に淋しい畑地だった。遠くに一筋の街道が、白々と横たわっていた。その彼方、暗色に茫とかすんでる先に、帯を引いたような、きらきら光ってる海が見えていた。 その丘の上の、木立の外れの叢の上に、彼等は腰を下した。枝葉の密なこんもりと茂った白樫が、濃い影を落していてくれた

文字遣い

新字新仮名

初出

「女性」1925(大正14)年9月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日