こうい
好意

冒頭文

河野が八百円の金を無理算段して、吉岡の所へ返しに来たのは、何も、吉岡の死期が迫ってると信じて、今のうちに返済しておかなければ………とそういうつもりではないらしかった。河野の細君にはそういう気持が多少働いてたかも知れないが、河野自身には少しもそんなことはなかったらしい。後で河野は私へ向って云った。 「八百円の金を拵えるのに貧乏な僕は、ひどい無理算段をしたには違いない。然し僕は、吉岡がもう長くは

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1924(大正13)年9月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日