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冒頭文
四月初旬の夜のことだった。汽車は北上川に沿って走っていた。その動揺と響きとに身を任せて、うとうとと居眠っていた私は、窓際にもたせた枕の空気の減ったせいか、妙に不安定な夢心地で、ぼんやりと薄眼を開いた。が、身を動かすのも大儀で、そのままじっとしていると、すぐ前の所に、淡い電燈の光を受けて、にこにこ微笑(ほほえ)んでる男の顔があった。おや、と思ってよく見ると、仙台で私が乗車した時から、其処に坐っていた
文字遣い
新字新仮名
初出
「女性」1924(大正13)年3月
底本
- 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
- 未来社
- 1965(昭和40)年12月15日