とち |
土地 |
冒頭文
鬱陶しい梅雨の季節が過ぎ去ると、焼くがような太陽の光が、じりじりと野や山に照りつけ初めた。畑の麦の穂は黄色く干乾び、稲田の水はどんよりと温(ぬる)み、小川には小魚(こうお)が藻草の影に潜んだ。そして地面からまた水面から、軽い陽炎(かげろう)がゆらゆらと立昇るのを、蒸し暑い乾いた大気は呑み込んで、重くのろのろと、何処へともなく押し移ってゆき、遠い連山の峰からは、積み重り渦巻き脹れ上る入道雲が、むくむ
文字遣い
新字新仮名
初出
「青年」1924(大正13)年4月
底本
- 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
- 未来社
- 1965(昭和40)年12月15日