あくむ
悪夢

冒頭文

私は時々、変梃な気持になることがある。脾肉の歎に堪えないと云ったような、むずむずした凶悪な風が、心の底から吹き起ってくることがある。先ず第一に、或る漠然とした息苦しさを覚える。何もかもつまらなくなる。会社の下っ端に雇われて、毎日午前九時から、午後四時まで、時には六時過ぎまで、無意味な数字を、算盤(そろばん)でひねくりまわしたり、帳簿に記入したり、そしてその間には、自分の用でもない電話をかけさせたり

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1923(大正12)年8月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日