かみだな
神棚

冒頭文

霙交りの雨が、ぽつりぽつりと落ちてくる気配だった。俺はふと足を止めて、無関心な顔付で、空を仰いでみた。薄ぼんやりした灰色の低い空から、冷い粒が二つ三つ、頬や鼻のあたりへじかに落ちかかってきて、その感じが、背筋を通って足先まで流れた。 「愈々やってきたな。」 ふふんという気持で俺は呟いたが、その気持がはたと行きづまって、一寸自分でも面喰った。——朝から金の才覚に出かけたが、或る所では断られ、

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1923(大正12)年6月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日