はっけっきゅう
白血球

冒頭文

がらり…………ぴしゃりと、玄関の格子戸をいつになく手荒く開け閉めして、慌しく靴をぬぐが早いか、綾子は座敷に飛び込んできた。心持ち上気(じょうき)した顔に、喫驚した眼を見開いていた。その様子を、母の秋子は針仕事から眼を挙げて、静かに見やった。 「どうしたんです、慌てきって。……今日はいつもより遅かったようですね。」 「ええ、お当番だったのよ。」 手の包みを其処に置いて、袴も取らずに坐り

文字遣い

新字新仮名

初出

「良婦の友」1921(大正10)年3月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日