とくしゅぶらくのはんざい
特殊部落の犯罪

冒頭文

一 「久七、お前が好きな物持って来ただよ。」 晴々しい若い声と共に、表の戸ががらりと引開けられた。 とっつきの狭い土間、それから六畳ばかりの室、その室の片隅に、ぼろぼろの布団の上へ、更に二枚の蓆をかけて寝ていたのを、むっくり上半身だけ起してみると、引開けられた四角な明るみから、つるが飛び込んで来た。眼をぱちくりやってると、鼻先へ徳利をつき突けられた。 「何だかあててみろう。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1922(大正11)年2月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年12月15日