おろかないちにち
愚かな一日

冒頭文

瀬川が来ているのだなと夢現(ゆめうつつ)のうちに考えていると、何かの調子に彼はふいと眼が覚めた。と同時に隣室の話声が止んだ。彼は大きく開いた眼で天井をぐるりと見廻した。それからまた、懶い重みを眼瞼に感じて、自然に眼を閉じると、また話声が聞えてきた。やはり妻と瀬川との声だった。彼はその方へ耳を傾けた。 「……どうして取るのでございましょう?」 「さあ私も委しいことは聞きませんでしたが、医者に

文字遣い

新字新仮名

初出

「太陽」1920(大正9)年1月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第一巻(小説Ⅰ)
  • 未来社
  • 1967(昭和42)年6月20日