びしょう |
微笑 |
冒頭文
私は遂に女と別れてしまった。一つは周囲の事情が許さなかったのと、一つは私達の心も初めの間ほどの緊張を失ってしまっていたのと、二つの理由から互に相談の上さっぱりと別れてしまった。一切の文通もしないことにした。其後女は、下谷から芳町の方へ住替えたとも風の便りに聞いたが、別に私の好奇心をも唆らなかった。私は何物にも興味を失っていた。長い間のだらけ切った生活が、憂欝な退屈な重みとなって私自身の心のうちに返
文字遣い
新字新仮名
初出
「雄弁」1919(大正8)年2月
底本
- 豊島与志雄著作集 第一巻(小説Ⅰ)
- 未来社
- 1967(昭和42)年6月20日