かとにん
過渡人

冒頭文

一 三月の末に矢島さんは次のようなことを日記に書いた。——固より矢島さんは日記なんかつけはしない、これはただ比喩的に云うのである。 俺はこの頃妙な気持ちを覚ゆる。何だか新らしい素敵なことが起りそうな気がする。それはただ俺の内生活に於てでもない、また外生活に於てでもないが俺に関係するものであることは確かだ。どんなことだかまだ分らないが。兎に角何かが起りそうだ。……然し或はまた何に

文字遣い

新字新仮名

初出

「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日

底本

  • 豊島与志雄著作集 第一巻(小説Ⅰ)
  • 未来社
  • 1967(昭和42)年6月20日