たまつきばのいちぐう
球突場の一隅

冒頭文

一 夕方降り出した雨はその晩遅くまで続いた。しとしととした淋しい雨だった。丁度十時頃その軽い雨音が止んだ時、会社員らしい四人達れの客は慌(あわただ)しそうに帰っていった。そして後には三人の学生とゲーム取りの女とが残った。 室の中には濁った空気がどんよりと静まっていた。何だか疲れきったような空気がその中に在った。二つの球台(たまだい)の上には赤と白と四つの象牙球が、それでも瓦斯の光り

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1916(大正5)年2月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第一巻(小説Ⅰ)
  • 未来社
  • 1967(昭和42)年6月20日