はざくらとまてき
葉桜と魔笛

冒頭文

桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します。——と、その老夫人は物語る。——いまから三十五年まえ、父はその頃まだ存命中でございまして、私の一家、と言いましても、母はその七年まえ私が十三のときに、もう他界なされて、あとは、父と、私と妹と三人きりの家庭でございましたが、父は、私十八、妹十六のときに島根県の日本海に沿った人口二万余りの或るお城下まちに、中学校長として赴任して来て、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年9月27日