むさしの
武蔵野

冒頭文

上 この武蔵野は時代物語ゆえ、まだ例はないが、その中の人物の言葉をば一種の体で書いた。この風の言葉は慶長ごろの俗語に足利ごろの俗語とを交ぜたものゆえ大概その時代には相応しているだろう。 ああ今の東京(とうけい)、昔の武蔵野(むさしの)。今は錐(きり)も立てられぬほどの賑(にぎ)わしさ、昔は関も立てられぬほどの広さ。今仲(なか)の町(ちょう)で遊客(うかれお)に睨(にら)

文字遣い

新字新仮名

初出

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

底本

  • 日本の文学 77 名作集(一)
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年7月5日