やまのてのこ
山の手の子

冒頭文

お屋敷の子と生まれた悲哀(かなしみ)を、しみじみと知り初(そ)めたのはいつからであったろう。 一日(ひとひ)一日と限りなき喜悦(よろこび)に満ちた世界に近づいて行くのだと、未来を待った少年の若々しい心も、時の進行(すすみ)につれていつかしら、何気なく過ぎて来た帰らぬ昨日(きのう)に、身も魂も投げ出して追憶の甘き愁(うれ)いに耽(ふけ)りたいというはかない慰藉(なぐさめ)を弄(もてあそ)ぶ

文字遣い

新字新仮名

初出

「三田文学」1911(明治44)年7月

底本

  • 日本の文学 78 名作集(二)
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年8月5日