なんぽう
南方

冒頭文

島へ來てもう一月近くになるが、なんて風の吹くところだらう。着いた最初の日、濱邊から斷崖の急坂をのぼつて、榛(はん)の木の疎林、椿のたち並んだ樹間の路を、神着(かみつき)村の部落まで荷物をつけた大きな牛の尻について歩いてゆくとき、附近の林、畑地の灌木などが爭つて新芽をふき出してゐるのを見て、又、路が上つたり下つたりして、とある耕作地の斜面のわきに出たとき、その傾斜地一帶、更に上方になだらかな裾を引い

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「早稲田文學」1935(昭和10)年6月

底本

  • 現代日本文學全集79 十一谷義三郎 北條民雄 田畑修一郎 中島敦集
  • 筑摩書房
  • 1956(昭和31)年7月15日