れんあいのびくん |
恋愛の微醺 |
冒頭文
恋愛と云うものは、この空気のなかにどんな波動で飛んでいるのか知らないけれども、男が女がこの波動にぶちあたると、花が肥料を貰ったように生々として来る。幼(おさ)ない頃の恋愛は、まだ根が小さく青いので、心残りな、食べかけの皿をとってゆかれたような切ない恋愛の記憶を残すものだ。老(ふ)けた女のひとに出逢うと、娘の頃にせめていまのようなこころがあったらどんなによかったでしょうと云う。だから、心残りのないよ
文字遣い
新字新仮名
初出
「日本評論 昭和11年8月号」日本評論社1936(昭和11)年8月1日
底本
- 林芙美子随筆集
- 岩波文庫、岩波書店
- 2003(平成15)年2月1日