ぶんがくてきじじょでん
文学的自叙伝

冒頭文

岡山と広島の間に尾(お)の道(みち)と云う小さな町があります。ほんの腰掛けのつもりで足を止めたこの尾の道と云う海岸町に、私は両親と三人で七年ばかり住んでいました。この町ではたった一つしかない市立の女学校に這入(はい)りました。女学校は小さい図書室を持っていて、『奥の細道』とか、『八犬伝』とか、吉屋信子(よしやのぶこ)女史の『屋根裏の二処女』とか云った本が置いてありました。学校の教室や、寄宿舎は、ど

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造 昭和10年8月号」1935(昭和10)年8月1日発行

底本

  • 林芙美子随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2003(平成15)年2月1日