かしやさがし
貸家探し

冒頭文

山崎朝雲(やまざきちょううん)と云うひとの家の横から動坂(どうざか)の方へぽつぽつ降りると、福沢一郎(ふくざわいちろう)氏のアトリエの屋根が見える。火事でもあったのか、とある小さな路地の中に、一軒ほど丸焼けのまま柱だけつっ立っている家のそばに、サルビヤが真盛りの貸家が眼についた。玄関が二つあるけれども、がたがたに古い家で、雨戸が水を吸ったように湿っていた。ビール瓶で花園をかこってあるが、花園の中に

文字遣い

新字新仮名

初出

「都新聞」1935(昭和10)年11月27日~30日

底本

  • 林芙美子随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2003(平成15)年2月1日