ろうしつき
狼疾記

冒頭文

養其一指、而失其肩背、而不知也、則為狼疾人也。 ——孟子——       一 スクリインの上では南洋土人の生活の実写がうつされていた。眼の細い・唇の厚い・鼻のつぶれた土人の女たちが、腰にちょっと布片を捲いただけで、乳房をぶらぶらさせながら、前に置いた皿のようなものの中から、何か頻(しき)りにつまんで喰べている。米の飯らしい。丸裸の男の児が駈けて来る。彼も急いでその

文字遣い

新字新仮名

初出

「南島譚」1942(昭和17)年11月

底本

  • 山月記・李陵 他9篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1994(平成6)年7月18日