こうび
交尾

冒頭文

その一 星空を見上げると、音もしないで何匹も蝙蝠(こうもり)が飛んでいる。その姿は見えないが、瞬間瞬間光を消す星の工合から、気味の悪い畜類の飛んでいるのが感じられるのである。 人びとは寐(ね)静まっている。——私の立っているのは、半ば朽ちかけた、家の物干し場だ。ここからは家の裏横手の露路を見通すことが出来る。近所は、港に舫(もや)った無数の廻船(かいせん)のように、ただぎっしりと建

文字遣い

新字新仮名

初出

「作品」1931(昭和6)年1月

底本

  • 日本文学全集別巻1 現代名作集
  • 河出書房