ちいさなたび
小さな旅

冒頭文

五月六日 今宵は向嶋の姉に招かれて泊りがてら遊びに行くのである。 おさえ切れぬ嬉しさにそゝられて、日毎見馴れている玻璃窓外の躑躅でさえ、此の記念すべき日の喜びを句に纒めよと暗示するかのように見える。 母は良さんを連れて来た、良さんと云うのは此の旅を果させて呉れる——私にとっては汽車汽船よりも大切な車夫である。 俥は曳き出された。足でつッぱることの出来ぬ身体は

文字遣い

新字新仮名

初出

「俳句世界」1918(大正7)年6月号

底本

  • 決定版富田木歩全集
  • 世界文庫
  • 1964(昭和39年)12月30日